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◇ コ ラ ム ◇ 寺田寅彦の『蓄音機』と『ドンブラコ』

2009.04.16 コラム

 私は寺田寅彦の随筆が好きで学生時代良く「冬彦集」などを読んだ。寺田寅彦(1875-1932)は、東京大学の物理学者、すなわち科学者でありながら文学者の夏目漱石に師事し数多くの随筆などの文学作品を残した異色の人物である。
 その中で大正十一年四月朝日新聞に掲載された『蓄音機』という随筆は、自分が蓄音器で聴くSP盤を蒐集していることもあってとても印象深く記憶している。
 寺田寅彦は夫人を亡くした直後の正月に寅彦は親類の家でお伽歌劇の「ドンブラコ」というレコードをたまたま聴いた。寅彦はこう述べている。
 「(前略)夫れにも拘らず私の心は其時不思議に此のお伽歌劇の音楽に引き込まれて行つた。十分には聞きとり兼ねる歌詞はどうであつても、唱ふ人の巧拙はどうであつてもそんな事に構はず私の胸の中には美しい「子供の世界」の幻像が描かれた。聞いて居る内に何といふ事なしに、ひとりで涙が出て来た。永い間自分の眼の奥に固く凍りついて居たものが初めて解けて流れ出るやうな気がした。」
 そこで寅彦は一念発起して母親を亡くして暗くなりがちな我が家の子供たちに蓄音器と「ドンブラコ」のレコードを買い求めるのである。品物が届いた日のことを次のように表現している。
 「其夜の我家はいつになく賑はつた。何となしに子供の心を押しつけて居た暗い影が少くとも此夜は何処かへ行つてしまつたやうな気がした。疲れて快く眠る子供の顔を見比べながら雨戸にしぶく雨の音を聞いて居る内に何時の間にか説明の出来ない涙が流れた。」(筆者所有の寺田寅彦全集文学篇第二巻、昭和十二年二月刊より抜粋)
 この「ドンブラコ」という桃太郎劇のレコードを今日入手した。これは今から約100年近く前の明治末期のレコードである。国産品であるにもかかわらず、明治の米国出張録音盤などと比べても意外にも音質は悪くなかった。ただ、このレコードは5枚組で私が手に入れたのは最初の二枚だけであとの三枚は未所有ということになる。(5枚全部所有しているコレクターは日本に数名しかいないだろう。)
 いずれにしても、20年も前から気になっていた「ドンブラコ」のレコードを二枚だけでも入手できて満足した。100年前に録音された音がそのままよみがえった。感動の一瞬である。
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ドンブラコ
「ドンブラコ」のレーベルには、「北村季晴、帝国劇場オペラ及オケストラ部員」とある。初期のアメリカンレコードのレーベルの「ドンブラコ」は珍しい。
龍宮城
 昭和初期のオリエントレコードの歌詞カード。浦島太郎のものがたりのお伽歌劇。