◎ 政 治 ◎ 「防衛利権問題と政界再編」
以下は逓信「耀」12月号に掲載された私の執筆原稿です。ご意見等あらば「お問合せ」を通じてお願いします。
タイトル:「防衛利権問題と政界再編」
十一月四日の日曜日の午後、小沢代表が記者会見をして突然辞意を表明した。あの郵政解散総選挙以来、日本の政治に何が起きてもおかしくないと思っていたので、さして驚かなかった。現に九月には安倍晋三首相が突然辞任してしまった。一年前に、あれだけ高い支持率を誇っていた安倍政権が一年後に閣僚の不祥事や年金問題、構造カイカク路線の行き詰まり等で国民の支持を失い、首相の座から降りるとは、多くのマスコミ関係者も予想だにしなかったであろう。
可能性は低いと思うが、近い将来民主党の小沢グループが民主党を離脱し、自民党と合流し小沢代表が党首になっているかもしれないし、信念の政治家である平沼赳夫先生が、自民・民主大連立政権の首相になっていることだってあり得なくない。かつて社会党の村山富市氏が首相になった自社さ政権が実現したことだってあったではないか。
あるいは、自民党も民主党も数年後にはなくなっており、政界再編が実現していることだって、現在の小選挙区制の下では困難ではあるにしろ、全くありえない話ではない。
もう一度冷静になって考えてみようではないか。わずか二年前の郵政解散総選挙であれだけ圧勝した自民党が、参議院選挙でぼろまけしたのはなぜなのだろうか。普通では考えられないことである。かつての自民党王国の宮崎県でそのまんま東こと東国原氏が知事選で圧勝したのも偶然ではない。底流では国民の間に大きな政治不信が、特に政権与党に対して渦巻いている。
辞意表明の記者会見をした小沢代表が慰留され民主党代表として続投することとなった。このどたばた劇で、防衛省の守屋前事務次官をはじめとする例の防衛利権の事件が一時かすんでしまった。
ところが、ここにきて山田洋行の宮崎元専務が業務上横領の疑いで逮捕され、この問題がまた大きくとりあげられるようになった。
捜査のメスはバッチをつけた防衛族まで及ぶのかどうか。これが一番の肝心な点である。ある情報筋によると、今回の事件はロッキード事件を上回るような大事件に発展する可能性があるとのこと。なにせ防衛予算は莫大であり、扱う金額ははんぱでないからである。
なぜ、守屋氏が業者とあれだけやりたい放題ゴルフなどの遊興三昧ができたのだろうか。それは、バックに守屋氏を庇護してきた国会議員がいたからである。それが誰なのか。政権中枢にいた閣僚級の人物であることは間違いない。
つい最近までライブドアの堀江社長や村上ファンドの村上氏だってやりたい放題やっていた。彼らのバックにも政権中枢の擁護者がいたから暴利をむさぼることが出来たのである。前者の防衛利権問題も後者の「カイカク利権」問題も、まじめにひたいに汗してこつこつ働いている国民を欺くような悪質な利権屋の所業という点で、根本は同じである。
一部の人たちは、検察に対して本来逮捕されるべき悪質な利権屋の国会議員を見逃し、国策捜査で権力にとって邪魔な国会議員や学者だけをねらい打ちして逮捕していると批判している。その真偽のほどはさだかではないが、そういう批判があるからこそ、検察当局は、この防衛利権事件をトカゲのしっぽ切りでうやむやにするのではなく、是非ともひるむことなくしっかりと捜査して真相を究明して欲しい。それと同時に、事件の背後にいる巨悪に対してきちんとメスを入れ、これまでの国策捜査の汚名を返上していただきたい。
さて、十月の郵政民営化が実現してほどなくして、旧社会党系のJPU(旧全逓)と旧民社党系の全郵政の二つの郵政関連労組が合併して、JP労組(日本郵政グループ労働組合)が誕生した。JPUと全郵政は長い間、運動方針の相違により、激しい闘争を繰り広げてきた歴史がある(いわゆる「労々対立」)。それが、今となって一緒になるとは、本当に隔世の感がある。
また、長年自民党に対して票とカネを差し出し続けたのが大樹の会を中心とする特定郵便局関係者である。彼らの自民党に対する党費納入が平成十七年には約十一万人だったのが、平成十九年には約三千六百人に激減、その多くが国民新党の職域支部に移った(約二十万人)。一連の郵政民営化のプロセスで、労組も特定局長会も連帯している。
今こそ郵政関係者は過去の労使対立、労々対立といった恩讐や党派・イデオロギーを乗り越えて、一糸乱れぬ団結でもって、地域共同体を破壊し、日本本来の和の精神や、助け合いの精神と全く相容れない、市場原理主義、構造カイカク路線、新自由主義路線と戦うときである。
一昨年の強引な郵政解散総選挙のゆれもどしが来ている。国民も郵政民営化が郵政米営化であることに気がつきはじめている。防衛利権問題をきっかけにして、政界が大きくゆれ、健全な政党政治が復活することを願うばかりである。総選挙後に政界再編があるかもしれない。