◇ コ ラ ム ◇ 埋もれた天才作曲家「須賀田礒太郎」
戦前のポリドール盤を蒐集しているN君が二年前狭い我が家に遊びに来たときに頂いた盤がある。ニッチクの特殊盤で当時のNHKのJOAKが作成したいわゆる「AK盤」である。
タイトルは「皇軍」である。戦時中の盤とはいえ、狭隘な愛国心とかそういうものではなく、大変のびのびとした曲であり、なぜか私の愛聴盤となった。
今年に入ってこのニッチク盤に書かれている作曲者須賀田礒太郎がどのような人物であるのか知りたくなり、ヤフーで検索してみた。そうしたら、名フィルの岡崎隆さんという方が「須賀田礒太郎のHP」を作っていることが分かった。そのHPの次の箇所を見て私は不覚にも涙した。
「こうして、自らに残された時間がもはやあまり多く無い事を悟りつつあった須賀田は、これまで書きためた作品たちを系統だてて保存する必要性を感じ、大きなトランクに一つづつ、そのフルスコアを演奏会のプログラム等の資料などと共に収める作業に着手した。そして最後に自ら丁寧に書き記した「須賀田礒太郎作品目録」を添え、静かにその蓋を閉じたのである。
須賀田がトランクの蓋を閉じる時の思いは、一体、如何ばかりであったろうか。
これまで様々な賞を獲得した思い出の作品たち・・・そして、まだ実際に演奏されたこともないもの・・・それらすべてに永遠の別れを告げなければならなかった時、須賀田の頬には、恐らく万感の涙が光っていたことだろう。しかし彼は最後まで強く信じていたに違いない。自分の生のあるうちには遂にその演奏を聴けなかった作品も、いつの日にかこのトランクの蓋が開けられ、そして上演される日が来る事を・・・。
1952年7月、須賀田礒太郎は故郷・横浜に二度と戻る事なく、田沼町の自宅で静かにその短すぎる一生を終えた。享年僅か45歳であった。」
それから、約半世紀たった。私の手元にある超稀少盤の須賀田礒太郎は今日もいきいきとした演奏を続けている。とても新鮮な音である。天上界の須賀田礒太郎氏は今どんな気持ちで地上界を見ているのであろうか。
(「喜八ログ」が更新されたのでご覧あれ。)